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最高裁判所第一小法廷 昭和54年(行ツ)85号 判決 1983年2月24日

上告人 西日本重機株式会社

右代表者 一ノ瀬淳光

右訴訟代理人 三浦啓作 奥田邦夫

被上告人 福岡県地方労働委員会

右代表者会長 三苫夏雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人三浦啓作、同奥田邦夫の上告理由第一点について

原審の適法に確定するところによれば、(一) 上告人には従前労働組合はなかつたところ、昭和四九年一月六日に総評全国金属労働組合福岡地方本部博多古賀地域支部西日本重機分会(以下「西重分会」という。)が結成されたものであるが、西重分会の要求項目の大部分に対し上告人が団体交渉において回答を留保したので、西重分会はこれを不満として各種の組合活動を行い、その一環として、同年三月四日に分会長が分会員の団結により要求の実現を目指すべきことを内容とする本件ビラを配布したものであつて、本件ビラの配布は組合活動として極めて重要なものであつた、(二) 本件ビラの配布は、その態様及び目的並びにビラの内容に照らして、業務阻害その他上告人の企業活動に特段の支障を生じさせるものではなかつた、(三) 上告人は、本件ビラの配布に対し、即日、分会長に、本件ビラ配布は就業規則に違反する行為であるから厳に慎しむように注意するとともに後日責任を追及するのでその旨申し入れるとの内容の警告書を交付した、(四) 上告人は、従業員が西重分会を結成したこと、特に総評全国金属労働組合に加盟したことを嫌い、西重分会結成直後から、管理職をして、従業員に対して西重分会への加入の有無を問いただしたり、分会員に対し総評全国労働組合からの脱退を勧めるなどの行為をさせた、というのである。

右事実関係のもとにおいては、分会長に対する本件警告行為が労働組合法七条三号の不当労働行為にあたるとした原審の判断は、結論において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決の結論に影響のない点を捉えてこれを非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関し原審が認定した事実は、(一) 上告人においては、従業員に対する夏季一時金の賞与の金額は基本給に出勤率等を乗じて算出する計算式を用いており、欠勤日数の増加に対応して出勤率を減少させる方法をとつていたが、右出勤率を計算するに当たつては、年次有給休暇と特別休暇による休務日は出勤すべき日数に含まないとされていた、(二) 右の計算式作成の際にはストライキの場合は全く予想されておらず、その後も出勤率を計算する場合にストライキによる不就労を欠勤と扱うべきか否かについて、労使間の合意や慣行は成立していなかつた、(三) 西重分会がはじめてストライキを実施したところ、上告人は、本件夏季一時金の算定の基礎となる出勤率を計算するに際して、年次有給休暇や特別休暇の例にならわず、右ストライキによる不就労を通常の欠勤と同一に取り扱つた、(四) 本件夏季一時金についての上告人と西重分会との間の団体交渉においては、基準支給額を基本給の何箇月分とするかについては交渉が行われたが、ストライキによる不就労の取扱いについては特段の議題とはならず、上告人が出勤率の計算に際してストライキによる不就労を欠勤として扱つたことは西重分会所属の各従業員の支給額が算出されてはじめて判明したことであつた、(五) 上告人が右のように出勤率を計算するについてストライキによる不就労を通常の欠勤と同一に取り扱つたのは、上告人が前記のように従来従業員による組合結成を嫌忌し、組合員らに総評全国金属労働組合からの脱退を勧告していた等の事実に徴し、ストライキに対する制裁として行つたものと認められる、というのであり、右認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではない。

そうすると、右認定の事実関係のもとにおいて、上告人が本件夏季一時金の算定に基礎となる出勤率を計算するに当たりストライキによる不就労を欠勤として扱つた措置は労働組合法七条一号の不当労働行為にあたるとした原審の判断は、結論において正当というべきであり、原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、原判決の結論に影響のない点を捉えてこれを非難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告理由第二点につき裁判官藤崎萬里の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

上告理由第二点についての裁判官藤崎萬里の反対意見は、次のとおりである。

原判決及びこれを是認する多数意見は、夏季一時金を算定するにあたりストライキによる不就労を通常の欠勤と同一に取り扱うことが事実関係のいかんによつては不当労働行為にあたることもありうるとの前提に立つものであるが、私にはそのような前提が成り立つとは考えられない。その理由は、次のとおりである。

(一)  一般にストライキによる不就労を通常の欠勤と同一に取り扱うことが労働組合法七条にいう「不利益な取扱」あたると解するとしても、通常の欠勤と同一の取扱ということであれば、ストライキの不就労であるが故に不利益性が加重されていることはないわけであるから、同条にいう「労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて」する不利益取扱にはあたらないということになるであろう。このような考え方からすれば、通常の欠勤と同じ取扱であれば不当労働行為にあたらないことがすでに客観的に明らかであるということになり、個々の場合について不当労働行為にあたるか否かを判断するために、使用者の主観的意思その他の事実関係のいかんを問題にする必要はないことになるであろう。以上は、労働者に対する取扱一般についていえることであり、したがつて、給与・賃金のみならず、一時金の算定等にも当然妥当することであると考える。

(二)  原審の認定するところによれぱ、上告人においては従前から夏季一時金の算定にあたり基本給に諸要素の係数を乗ずる方式を用いており、出勤率がその要素の一つとされている。ところで、一般に一時金をいかなる性質のものとし、いかなる計算方式により算定するかについては、実定法上も理論上もこうでなければならないということはなにもないので、本件の夏季一時金の計算方式もそれ自体として別に問題とされる理由はなく、また、現に問題にされているわけでもない。

(三)  要するに、(イ) 使用者は一時金の算定にあたり出勤日数を考慮に入れることを妨げられず、また、(ロ) 一般にストライキによる不就労の欠勤と同一に取り扱うことが不当労働行為にあたることはないという二つの点が認められれば、本件の結論はおのずから明らかであろうというのが私の考え方である。これに対して、多数意見の前提とするところには、一時金の算定にあたつて通常の欠勤が減額の要素として計算に入れられている場合ストライキによる不就労を同じ取扱にしていいとは限らないとか、あるいは、ストライキによる不就労の場合給与・賃金についてはノーワーク・ノーペイの原則で割り切ることができるとしても、一時金については通常の欠勤なみに扱つても不当労働行為として問題になる余地がある、というような考え方が含まれていると思われるが、これらは私の納得しえないところである。

そうすると、上告理由第二点の論旨は、結局、理由があり、原判決中、本件命令のうち夏季一時金についての部分の取消請求を棄却した部分は破棄を免れないとすべきものと考える。

(裁判長裁判官 和田誠一 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

上告代理人三浦啓作、同奥田邦夫の上告理由

第一点法令違背

原審は、ビラ配布についての判断につき、労働組合法七条三号の解釈適用を誤つており、右誤りは判決に影響を及ぼすものである。すなわち、原審は、上告人が行なつた訴外山崎高幸に対する警告行為は、正当な組合活動に対する威嚇であつて、組合運動に対する支配介入に該当し、労組法七条三号の不当労働行為に当ると解するのが相当であると判示した(原審の引用する第一審判決書一六枚目表から一九枚目表三行目)。しかしながら、上告人が行なつた右警告行為は、以下に述べる理由によりなんら正当な組合活動に対する威嚇ではなく、組合運営に対する支配介入に該当しない。したがつて、右原審の判断は、労組法七条三号の解釈適用を誤つたものである。

一、施設内文書活動と施設管理権に対する考え方

1 施設管理権

施設管理権は、所有権等に基づく物的管理権能を中心とし、企業がその企業目的に合致するようその施設を管理する権限であり、企業施設を経営目的にそつて管理する限度で、その目的達成に支障を与える行為に対し、制限、禁止等の措置をもとり得る権能である。

2 施設管理権と組合活動

(一) 団結権と施設管理権との関係

憲法が労働者の団結権等と共に私的所有権等も保障している以上、団結権等に基づく組合活動は、私的所有権に基礎を置く施設管理権を侵害しない範囲で行なわなければならない。

団結権と施設管理権とが矛盾、抵触する場合、団結権が施設管理権に優先すると言えるためにはその旨の権利保障規定が必要と解される処、憲法二八条には団結権等により施設管理権が当然に外的制約を被る旨規定していないし、またその他その旨を規定している法律はない。企業内組合であるが故に施設内組合活動が必要であるといういわゆる必要性の論理も使用者の施設管理権に対し外的制約を加え得る法的根拠にはなりえない。この論理は、運動論としてならともかく、法律論としての説明にはならない。

そもそも、労組法二条但書、七条三号等で明らかに様に、組合活動は使用者から独立し、使用者に対抗して展開されるべきものであつて、使用者の施設を利用して組合活動をなすこと自体が本来の姿ではない。元来団結権と施設管理権は、あくまでも対等の権利であつて、一方が他方に優先する関係にはなく、団結権が施設管理権を侵害すれば、当然違法という評価を受けねばならない。

(二) 組合活動は施設外時間外での原則

以上で明らかな如く組合及び労働者は、組合活動の故に当然に企業施設を利用する権限を有しているものではなく、使用者の承認を得た限度で利用出来るにすぎず、使用者が右承認を与えるか否かは原則として使用者の自由にゆだねられている。従つて、使用者の意に反する企業施設内組合活動は、原則として使用者の施設管理権を侵害する違法なものであつて、ただ、例外的に権利に内在する制約として施設管理権の行使が権利の濫用に該当し、その行使が許されなくなる場合があり得るにすぎない。そして権利の濫用に該当すると言えるには、施設管理権の行使により組合の受ける不利益が使用者が組合活動を甘受することにより受ける不利益を「はるかに上回る」ことが必要になる。

二、ビラ配布に対する事件警告措置の正当性

1 山崎高幸のビラ配布行為は、上告人の施設管理権を侵害し原則として違法である。又、上告人は就業規則第五条及び実際の運用に従い、職場秩序維持の為特に社内における安全保持の見地から本件警告を発したものであつてそこには十分合理的理由がある。

2 前述の如く、山崎高幸のビラ配布行為が、上告人の施設管理権を侵害し違法である以上、それがまず正当な組合活動と評価されるためには、施設管理権による制約が、権利の濫用に該当する必要があると解釈すべきである。そこで権利の濫用に該当するか否かを検討すれば、本件ビラは、会社施設外(例えば門の入口附近の構外)で配布されたとしても、充分情宜活動の目的を達し得るものであるのに対し、就業規則を無視してのビラ配布が行なわれれば、就業規則を軽視する風潮が蔓延し、職場規律が乱され、引いては職場における安全性もおかされる結果になる(本件職場は、業務の性質上極めて危険な職場である)。すなわち、施設内のビラ配布行為を制限されることにより組合の受ける不利益は、就業規則が全く無視されることにより会社の受ける不利益を「はるかに上回る」とはいえない。従つて、上告人の就業規則を無視したビラ配布に対する警告措置は合理的であり、施設管理権の濫用と目すべきではない。会社内に於ける自主法である就業規則を全く無視してビラを配布した右山崎高幸の行為は、経営秩序を乱すものであり、これに対する警告措置は、至極当然のことである。

また、原審は、現実に業務上施設管理上の支障が生じたか否かを、利益衡量の判断基準にしているが、上告人のような危険を伴う業種にあつては、業務上、施設管理上の支障(安全性の確保)は、それが「生じる危険性」で足りるというべきであつて、現実に具体的な危険が生じたか否かを判断基準とすべきではない。

第二点法令違背

原審は賞与カットに関する判断において、労組法七条一号の解釈適用を誤つており、また最高裁判所昭和四八年一二月一八日判決東洋オーチスエレベーター上告事件(最高三小四四(オ)四八九、最高裁判所裁判集民事一一〇号七一五ページ)に違反した判決をしている。すなわち、原審は、賞与のストライキ控除につき通常の欠勤については賞与算定の際出勤率を要素とする計算方式が合理性をもつといえても、出勤率の算定にあたり本来法によつて認められた権利の行使であるストライキを通常の欠勤と同様に扱うことはストライキに対する制裁として、労働組合の正当な行為をしたことに対する不利益取扱であり、労働組合法七条一号の不当労働行為に当ると解するのが相当であると判旨した(原審が引用する第一審判決一九枚目表四行目から二一枚目表四行目)。

しかしながら、右原審の判断は、以下に述べる理由により労働組合法七条一号の解釈適用を誤つたものであり、また、前記最高裁判所の判旨にも反するものである。

一、ストライキによる不就労も、通常の欠勤による不就労も、労働契約に基づく労務の提供がなされていない点に於いては全く同様である。従つて、賞与の支給基準の取扱に際し、ストライキが正当なものである場合にも、労務の提供がなされていないという点に着目し、「欠勤」にストライキによる不就労を含め、通常欠勤による不就労と同じく欠勤として取扱うこととしても何らさしつかえなく、正当な組合活動を理由とする不利益取扱視されるべきものではない。むしろ、ノーワーク・ノーペイの原則に基づく当然の措置というべきである。

二、上告人に於ける賞与の算定方法は、昭和三六年八月の会社設立以来、基本給に出勤率およびその他要素の係数を乗ずる方法によつて算出する方法がとられて来た。このように出勤率を直接に賞与の算定に反映させるのは、上告人の主たる業務である整備業務がほとんど手作業であり、整備料金自体も整備に要した時間数に比例して算出される構造になつていることに基づくものである。また、整備工の給与体系も、現実にその労働者の提供した労働量に比例する日給月給制がとられている。

三、右の出勤率は、欠勤日数毎に予め一定の率が定められている。そして従来、右欠勤については、それが止むを得ない事由に基づく欠勤であろうと、非正当事由に基づく欠勤であろうと、労働日数が少ないという点で同一であることから、これを区別せず同列に扱つて来た。

四、本件ストライキに際して、これを通常の欠勤と区別せず、同列に扱つたのは、稼働日数が少ないという点において全く同じであると判断したからである。組合活動を嫌悪しての故ではない。

五、原審はいわゆる欠勤控除の計算式につき本来就労義務を負いながらその履行をしない欠勤については、それが合理性をもつといえても、本来法によつて認められた権利の行使であるストライキを右の欠勤と同様に扱うことは合理性がないと判断している。

しかし、上告人がストライキの場合を通常欠勤の場合と同様に取扱つたのは、それが本来の稼働日数よりも少ない点をとらえて同一に扱つたものであつて、それ以外の理由からではない。ちなみに、本来の欠勤控除も損害賠償的意味をもつものではなく、稼働日数が少ない点に着目したものである。

もし、原審の判断が正当であるとすれば、ストライキが長期に及んだ場合には、どのように判断すべきであろうか。その場合にも全く欠勤控除をしてはならないということになるのか。賞与が賃金の後払的性格を有するものとするなら全く不合理という外はない。

六、元来争議権が、権利として認められているということは、ストライキによる民事責任及び不利益取扱から解放されるということであり、それ以上の権利ではない。労務の提供をしていない以上賃金請求権を有するものではない。したがつて、労務を提供しなかつたものとして、その分を差引くのは、当然のことである。むしろ、差引かないことこそ、経費援助に該るものと考えられる。

ストライキの場合を通常の欠勤と区別して、例えば欠勤の二倍控除すると取扱うならともかく、ノーワークということで通常の欠勤と同視した取扱をすることは、全く正当である。

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